1.軸の省略 ― 小さな差を大きく見せる
棒グラフの棒の高さは、値の大きさを目で比べるためのものです。ところが縦軸が0でないところから始まると、棒の高さの比が実際の値の比と違ってきます。小さな差が何倍もの差のように見えてしまうのです。
縦軸を途中から始めるのが、いつも間違いというわけではありません。体温や株価のように0近くまで下がることのない値の小さな変化を見る折れ線グラフでは、よく軸を省略します。問題なのは、棒の長さで大きさを比べさせながら軸を省略する場合です。グラフを見たら、まず縦軸の始まりの値と目盛を確かめましょう。
- 手順1:グラフで見える棒の高さ。Aは 100 − 98 = 2目盛、Bは 104 − 98 = 6目盛。
- 手順2:見かけの比。6 ÷ 2 = 3倍。
- 手順3:実際の比。104 ÷ 100 = 1.04、つまりBはAより4%高いだけです。
- 検算:縦軸を0から描けば、棒の高さは100と104で、目ではほとんど区別できない差です。
2.相関は因果ではない
2つの値がいっしょに上がり下がりすることを相関関係といいます。夏にはアイスクリームの売上が増え、水の事故も増えます。2つの間にははっきりした相関がありますが、アイスクリームが事故を起こすわけではありません。気温という第3の要因が、2つをいっしょに動かしているのです。このような隠れた要因を交絡因子といいます。
相関を因果と読む前に、3つのことを問いかけましょう。隠れた共通の原因はないか。原因と結果の向きが逆ということはないか(運動する人が健康なのか、健康な人ほど運動するのか)。たまたま重なっただけではないか。因果を確かめるいちばん確実な方法は、無作為に分けた2つの集団を比べる実験ですが、いつもそうした実験ができるわけではありません。
- 共通の原因:気温 → アイスクリームの売上、気温 → 水の事故
- 向きが逆:「病院によく行く人ほど具合が悪い」― 具合が悪いから病院に行くのである
- 偶然:関係のない2つの統計でも、期間をうまく選べば似た動きをすることがある
3.標本の偏り ― だれに聞いたのか
全体をすべて調べることはできないので、一部(標本)を抜き出して全体を推定します。このとき標本が全体に似ていなければ、どれだけたくさん集めても結果は偏ります。あるアプリの中だけで行ったアンケートはそのアプリを使う人の意見であり、自分から回答した人だけを集めたアンケートは、そのテーマに関心の高い人の意見に近いものです。
生き残ったものだけを見るのも標本の偏りです。「成功した人はみな早起きだった」という話からは、早起きしたのに成功しなかった人たちが抜け落ちています。データを見るときは、数字より先に「だれが、どのように選ばれ、だれが抜けているのか」を問わなければなりません。標本の大きさより、選び方のほうが大切なことがよくあります。
AIも同じ問題を抱えています。学習データが特定の集団に偏れば、AIの判断もそちらに偏ります。「AIの基礎」コースで扱うデータの偏りとは、まさにこの標本の偏りです。
4.割合と実数、相対的な変化と絶対的な変化
人口100万人の都市と10万人の都市の事故件数をそのまま比べると、大きな都市のほうがいつも多く見えます。公平に比べるには、人口10万人あたりのように同じ基準に直した割合を見なければなりません。逆に、割合だけを見て実数を見落とすと、実際の規模を誤解します。
「リスクが2倍に増えた」という言い方にも同じ問題がひそんでいます。相対的な変化(2倍、100%増加)は大きく聞こえますが、もとのリスクがとても小さければ、絶対的な変化はわずかかもしれません。両方をあわせて見てこそ判断できます。
- 手順1:都市A。500 ÷ 1,000,000 × 100,000 = 50件。
- 手順2:都市B。100 ÷ 100,000 × 100,000 = 100件。
- 手順3:実数ではAが5倍多いのですが、人口あたりではBが2倍高くなります。
- 検算:Aは10万人のまとまりが10個で 500 ÷ 10 = 50、Bは1個なので100。同じ結果です。
- 手順1:相対的な変化。(4 − 2) ÷ 2 = 1 → 100%増加(2倍)。
- 手順2:絶対的な変化。2 ÷ 10,000 = 0.02% から 4 ÷ 10,000 = 0.04% へ、0.02%pの増加。
- 検算:0.04 − 0.02 = 0.02%p で、10,000人あたり2人増えたのと同じです。
5.平均とまとめ方の落とし穴
平均の深さが1 mの川を歩いて渡れるでしょうか。岸のほうが浅く真ん中が3 mなら、平均は1 mでも渡れません。平均は散らばりも最大値も教えてくれません。第8講で見たように、平均の横には中央値と散らばりをいっしょに置く必要があります。
まとめて見た結果と、分けて見た結果が正反対になることもあります。これをシンプソンのパラドックスといいます。下の例では、病院Xは簡単な手術でも難しい手術でもYより成功率が高いのに、合計するとYのほうがずっと高く見えます。Xが難しい手術をはるかに多く引き受けているからです。
| 簡単な手術 | 難しい手術 | 全体 | |
|---|---|---|---|
| 病院X | 9/10(90%) | 30/90(約33%) | 39/100(39%) |
| 病院Y | 85/100(85%) | 3/10(30%) | 88/110(80%) |
- 手順1:X全体。(9 + 30) ÷ (10 + 90) = 39 ÷ 100 = 39%。
- 手順2:Y全体。(85 + 3) ÷ (100 + 10) = 88 ÷ 110 = 80%。
- 手順3:Xは患者100人中90人が難しい手術、Yは110人中10人だけが難しい手術です。全体の成功率は、各病院が受け持った患者の構成に大きく左右されます。
- 検算:簡単な手術 90% > 85%、難しい手術 約33.3% > 30% で、どちらのまとまりでもXが高いのです。ところが全体は 39% < 80% です。
📌 要点まとめ
- 棒グラフの縦軸が0から始まっていないと、差が誇張されて見える
- 相関関係は因果関係ではない ― 共通の原因、向き、偶然をまず疑う
- 標本は大きさより選び方が大切である ― だれが抜けているかを問う
- 実数と割合、相対的な変化と絶対的な変化をあわせて見る
- 平均1つでは散らばりはわからず、まとめた結果は分けた結果と逆になることがある
🤖 AIにはこう聞いてみましょう
コピーして [ ] の部分を自分の状況に書き換えて使います。答えはそのまま信じず、本文と比べて確かめましょう。
記事や報告書のグラフを批判的に読みたいとき
次のグラフ(または数値)の説明を見て、軸の省略・基準(分母)・標本の偏り・相関と因果・割合と実数・まとめた統計の落とし穴のうち、当てはまりそうなものを点検表で指摘してください。項目ごとに、確かめるにはどんな追加情報が必要かも書いてください。内容:[貼り付け]
グラフの落とし穴を練習したいとき
架空の数字で、誤解を招くグラフの説明を5つ作ってください。それぞれにどんな落とし穴が隠れているかは伏せておいて、私が見つけた後で正解と正しい計算を見せてください。実際の統計のように見えないよう、必ず「例」と明記してください。
AIが作ったデータの要約を受け取ったとき
今の要約で使った数値ごとに、出典と基準(何を分母にしたか)を明らかにしてください。出典を確認できない数値は別に印をつけてください。
- 高校の数学教科書の一般的な内容(統計、標本調査)
- 基礎的な統計学の教科書の一般的な説明(相関と因果、シンプソンのパラドックス)
学習目標をすべて達成できたら完了を押しましょう。
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