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💰 経済・金融の基礎 · 第8講 / 10

分散とリスク ― リスクとリターンはなぜいっしょに動くのか

リスクとは、結果がどれだけぶれるか、そして失う可能性がどれだけあるかです。損失を取り戻すにはより大きなリターンが必要で、違う動きをするものを組み合わせると全体のぶれは小さくなりえますが、リスクが消えるわけではありません。

⏱ 約18分 ✍️ 確認問題 5問 更新 2026-10-09
🎯 この講義の学習目標
  • リスクを変動の大きさ(ボラティリティ)と損失の可能性で説明できる
  • 損失率から、元本を取り戻すのに必要な利回りを計算できる
  • 算術平均の利回りと幾何平均の利回りの違いを例で示せる
  • 相関の低い2つの資産を組み合わせるとぶれが小さくなるしくみを説明できる

1.リスクとは何か ― ぶれと失う可能性

日常で「危ない」と言えばけがをするかもしれないという意味ですが、お金を扱うときのリスクはもう少し広い意味を持ちます。1つは、結果がどれだけぶれるか、つまり変動の大きさ(ボラティリティ)です。ある年は大きく上がり、ある年は大きく下がる資産は、平均が同じでも変動が大きいのです。もう1つは、元本より少なくしか戻ってこない可能性、つまり損失の可能性です。

変動の大きさは、数学第8講で学んだ標準偏差で測ります。利回りが平均からどれだけ離れて散らばっているかを1つの数で表したものです。例として、毎年 +30% と −10% を交互にくり返す架空の資産があれば、平均は10%で、各年は平均から20ポイントずつ離れているので、標準偏差は20ポイントです。

大事なのは、変動そのものが悪いわけではないということです。ただ、お金が必要なちょうどそのときに値が大きく下がっているかもしれないこと、そして下で見るようにぶれが複利の結果を削ることから、よく考えておく必要があります。

2.失った分だけ稼いでも元には戻らない

100万円が50%減ると50万円です。これを再び100万円にするには50万円を稼がなければなりませんが、今のもとにする量は50万円なので、必要な利回りは100%です。数学第2講で、20%下げてから20%上げても元に戻らなかったのと同じ理屈です。損失が大きいほど、取り戻すのに必要な利回りはずっと速く大きくなります。

だからこそ、大きな損失を避けることが長期の結果に大きく影響します。一度大きな損失を出すと、その後同じ利回りを上げても、減った元本から出発することになるからです。

回復に必要な利回り = 1 ÷ (1 − 損失率) − 1
損失率と、元本を取り戻すのに必要な利回り(小数第1位に四捨五入)
損失率残る割合回復に必要な利回り
−10%0.91 ÷ 0.9 − 1 ≈ +11.1%
−20%0.81 ÷ 0.8 − 1 = +25%
−30%0.71 ÷ 0.7 − 1 ≈ +42.9%
−50%0.51 ÷ 0.5 − 1 = +100%
−75%0.251 ÷ 0.25 − 1 = +300%

3.変動が複利を削る ― 算術平均と幾何平均

例として、ある資産が1年目に +50%、次の年に −50% だったと仮定します。2年分の利回りを足して2で割った算術平均は0%です。ところが実際のお金は 100万円 → 150万円 → 75万円 と、25%減りました。平均は0%なのにお金が減ったのです。

何年にもわたる実際の成長を表すのは幾何平均です。毎年かける数をすべてかけ合わせてから、年数乗根をとります。第1講で見た複利の計算を逆にたどるわけです。利回りのぶれが大きいほど、幾何平均は算術平均より低くなります。この差はよく「変動による損失(ボラティリティ・ドラッグ)」と呼ばれます。広告や記事で「平均利回り」を見たら、どちらの平均なのかを確かめる必要があるのはこのためです。

算術平均 = (利回り1 + 利回り2 + …) ÷ 年数
幾何平均 = (かける数1 × かける数2 × …)^(1 ÷ 年数) − 1
例題例として、1年目 +50%、次の年 −50% の資産の算術平均と幾何平均を求めてみましょう(小数第1位に四捨五入)。
  1. 手順1:算術平均。(50 + (−50)) ÷ 2 = 0%。
  2. 手順2:かける数。1.5 × 0.5 = 0.75。2年間で25%減りました。
  3. 手順3:幾何平均。0.75の平方根 ≈ 0.866、0.866 − 1 ≈ −13.4%。
  4. 検算:0.866 × 0.866 ≈ 0.75 で、1,000,000 × 1.5 × 0.5 = 750,000円です。
答え算術平均は0%、幾何平均は約 −13.4%(毎年約13.4%ずつ減ったのと同じ)

4.いっしょに動かないものを組み合わせると

分散とは、1つにすべてを賭けずにいくつかに分けることです。効果が出る条件は、分けた先がそれぞれ違う動きをすることです。2つの対象がどれだけ同じ方向に動くかを表す数が相関係数です。+1なら完全にいっしょに動き、0なら互いに関係がなく、−1なら正反対に動きます。

下の例は計算を見せるための架空の極端なケースで、半分ずつに分けるのも計算をやさしくするための仮定にすぎず、勧める割合ではありません。現実には正反対にばかり動く資産はまれで、危機のときにはふだん別々に動いていたものがいっしょに下がることもあります。相関が +1 に近いもの同士を組み合わせても、分散の効果はほとんどありません。

表で半分ずつ組み合わせたほうが2年後に多く残ったのは、平均利回りが高いからではありません。Aだけ、Bだけ、半分ずつのどれも、2年間の算術平均は10%で同じです。半分ずつのほうはぶれがなかったので、先に見た変動による損失を受けなかっただけです。ただしこれは2つの資産がぴったり逆に動くと仮定した結果で、実際に組み合わせた結果は、それぞれの資産の利回りと相関によっていくらでも変わりえます。

架空の2つの資産A・Bと、半分ずつの組み合わせ(毎年の初めに半分ずつに戻すと仮定)
1年目2年目2年後の100万円は
Aだけ+30%−10%1,000,000 × 1.3 × 0.9 = 1,170,000円
Bだけ−10%+30%1,000,000 × 0.9 × 1.3 = 1,170,000円
半分ずつ+10%+10%1,000,000 × 1.1 × 1.1 = 1,210,000円
例題例として、100万円をA・Bに50万円ずつ分けたと仮定します。1年目にAは +30%、Bは −10% でした。全体の利回りはいくらでしょうか。
  1. 手順1:A。500,000 × 1.3 = 650,000円。
  2. 手順2:B。500,000 × 0.9 = 450,000円。
  3. 手順3:合計は1,100,000円、(1,100,000 − 1,000,000) ÷ 1,000,000 = 10%。
  4. 検算:2つの利回りの加重平均 0.5 × 30 + 0.5 × (−10) = 10% と一致します。
答え+10%。Aだけを持っていたときの +30% と −10% を行き来するぶれ(標準偏差20ポイント)が、この架空の例では毎年 +10% となって0になります
もしBがAとまったく同じく +30%、−10% と動いたなら、半分ずつ組み合わせても結果はAだけを持ったときと同じです。何をいくつ持っているかより、それらが互いにどれだけ違う動きをするかが分散の要です。

5.リスクとリターンの交換、そして期間と流動性

一般的な原則として、より高い期待リターンをねらうなら、たいていより大きなリスクもいっしょに引き受けなければなりません。リスクの大きいものを人々が持つには、それに見合う見返りが期待されなければならないからです。けれどもこれは「リスクをとれば高いリターンが得られる」という保証ではありません。リスクが大きいとは、結果が期待よりずっと悪くなることもあるという意味です。反対に、リスクは低いのにリターンは高いという約束は、まず疑ってかかるべきです。次の第9講でこの点を扱います。

同じ資産でも、使える期間によって重みが変わります。数か月後にどうしても使うお金が大きくぶれる場所にあると、値が下がったときに売らなければならないかもしれません。また流動性、つまり必要なときに適正な値段に近い額ですぐ現金に換えられるかどうかも、リスクの一種です。第3講の緊急資金をすぐ引き出せる場所に置くべき理由がここにあります。第7講で見た商品も、変動の大きさ・損失の可能性・流動性がそれぞれ違います。

  • このお金はいつ使うお金か
  • 最悪の場合、いくらまで減っても暮らしに差し支えないか
  • 必要なときにすぐ現金に換えられるか
  • 持っているものが同じ理由でいっしょに下がることはないか
実際の指数や銘柄が過去にどれだけぶれ、どれだけ下がったかは、下のツールで記録として見られます。過去に回復したという記録が、これからも回復するという保証ではないことも、あわせて覚えておきましょう。

📌 要点まとめ

  • リスクとは、結果のぶれ(変動の大きさ)と、元本より少なくしか戻らない可能性である
  • 損失を取り戻すにはより大きな利回りが必要だ:−50%には+100%、式は 1 ÷ (1 − 損失率) − 1
  • ぶれが大きいほど、幾何平均(実際の成長)は算術平均より低くなる:+50%の後に−50%なら−25%
  • 分散の効果は、違う動きをする(相関の低い)ものを組み合わせたときに生まれ、リスクを消すことはできない
  • 高い期待リターンにはたいてい高いリスクがともなうが、保証ではない ― 使う時期と流動性もあわせて考える

✍️ 確認問題

まず自分で解いてから「解答と解説」を開いてください。

Q1. 例として、ある資産が40%の損失を出しました。元本を取り戻すには何%上がる必要があるでしょうか。

⭕ 正解です

❌ もう一度考えてみましょう

解答と解説
正解 ② 約66.7%

残る割合は0.6なので、1 ÷ 0.6 − 1 ≈ 0.667、約66.7%です。検算:600,000 × 1.667 ≈ 1,000,000円。

Q2. 1年目 +20%、次の年 −20% の資産についての説明として正しいものはどれでしょうか。

⭕ 正解です

❌ もう一度考えてみましょう

解答と解説
正解 ② 算術平均は0%だが、お金は4%減った

1.2 × 0.8 = 0.96 なので4%減りました。ぶれがあると、幾何平均は算術平均より低くなります。

Q3. 分散の効果がいちばん小さいのはどの場合でしょうか。

⭕ 正解です

❌ もう一度考えてみましょう

解答と解説
正解 ③ 相関係数が +1 に近い2つの資産を組み合わせるとき

同じ方向にいっしょに動くもの同士を組み合わせても、ぶれはほとんど小さくなりません。

Q4. 例として、100万円が1年目に +50%、次の年に −50% になりました。2年後の金額はいくらでしょうか。

解答と解説
解答例 750,000円

1,000,000 × 1.5 = 1,500,000円、1,500,000 × 0.5 = 750,000円です。算術平均は0%ですが、25%減りました。

Q5. 「リスクが低いのにリターンは高い」という話を聞いたときにとるべき態度を、一文で書いてください。

解答と解説
解答例 リスクとリターンはたいていいっしょに動くので、その根拠と損失の可能性をまず確かめて疑ってかかる

高い期待リターンにはたいてい高いリスクがともないます。その2つを同時に約束する話は、第9講で見る詐欺の典型的なサインでもあります。

🤖 AIにはこう聞いてみましょう

コピーして [ ] の部分を自分の状況に書き換えて使います。答えはそのまま信じず、本文と比べて確かめましょう。

損失と回復を自分で計算してみたいとき

損失率 [数字]% のとき、元本を取り戻すのに必要な利回りを 1 ÷ (1 − 損失率) − 1 の式で、計算の過程とあわせて見せてください。それから [毎年の利回りのリスト] の算術平均と幾何平均をそれぞれ求め、2つがなぜ違うのかを説明してください。私は電卓でもう一度確かめます。

分散のしくみを自分の言葉で理解したいとき

架空の2つの資産で、相関係数が +1、0、−1 に近い3つの場合を作り、半分ずつ組み合わせたときに利回りのぶれがどう変わるかを表で見せてください。実際の商品名や勧める割合は入れずに、しくみだけを説明してください。

記事や広告の「平均利回り」を見たとき

次の文の「平均利回り」が算術平均なのか幾何平均なのかを判断するのに必要な情報は何かを教えてください。期間・基準日・出典が明らかにされているかも点検してください。文:[貼り付け]

🧰 関連ツール

この講義の計算を自分の数字で試せるツールです。結果は入力した仮定による計算で、投資の勧誘ではありません。

参考
  • 財務・投資論の教科書で扱われる、リスク・リターン・分散の原則の一般的な内容
  • 統計学の入門書における平均・標準偏差・相関係数の定義の一般的な内容

学習目標をすべて達成できたら完了を押しましょう。

💰 経済・金融の基礎

  1. 1お金の時間価値と複利 ― 時間がお金を育てるしくみ
  2. 2金利・物価・実質利回り ― 増えたお金と増えた購買力
  3. 3予算と緊急資金 ― お金の流れを見て、備えのクッションをつくる
  4. 4ローンと信用 ― 返し方がコストを変える
  5. 5税金の基礎 ― 給与所得と金融所得
  6. 6保険のしくみ ― リスクを分け合う計算
  7. 7株式・債券・投資信託・ETF ― 何がどう違うのか
  8. 8分散とリスク ― リスクとリターンはなぜいっしょに動くのか
  9. 9詐欺と誇大広告 ― 数字で見抜く方法
  10. 10経済ニュースを読む ― 指標を正しく見て、AIの答えを検証する
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