1.今日の100万円と1年後の100万円
今100万円を受け取るか、1年後に100万円を受け取るかを選べと言われたら、たいていの人は今を選びます。今受け取ったお金は預金に入れて利息を受け取れますし、急な用事にも使えます。そのうえ1年の間に物価が上がれば、同じ100万円で買えるものが減ってしまうからです。このように、同じ金額でも受け取る時点によって価値が変わることを、お金の時間価値といいます。
時間価値を数字で扱う道具が金利です。金利は、お金を貸す側が待つことと危険を負うことの見返りに受け取る分であり、借りる側が今お金を使うことの見返りに払う分です。このコースを通して、金利は預金・ローン・投資・物価を1つに結ぶ共通の言葉として使われます。この講義では、そのいちばんの土台になる単利と複利、そして時間をさかのぼる現在価値を扱います。
2.単利と複利 ― 利息に利息がつくかどうか
単利は、最初の元本にだけ利息がつく方式です。100万円を年5%の単利で預けると、毎年5万円ずつ同じように増えます。複利は、前の年までについた利息が元本に加わり、その合計にまた利息がつく方式です。そのため複利は毎年「足し算」ではなく「かけ算」で増えていきます。年5%の複利なら、毎年1.05をかけます。
この講義の計算はすべて、1年に1回利息をつける年1回複利で行い、結果は1円未満を四捨五入します。実際の金融商品は利息をつける周期や税金によって結果が少しずつ違うので、ここではしくみを見ることに集中します。下の表は、例として100万円を年5%で預けると仮定した計算です。最初の数年は差が小さいものの、期間が長くなるほど開いていきます。
| 期間 | 単利 | 複利 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1年 | 1,050,000円 | 1,050,000円 | 0円 |
| 5年 | 1,250,000円 | 1,276,282円 | 26,282円 |
| 10年 | 1,500,000円 | 1,628,895円 | 128,895円 |
| 20年 | 2,000,000円 | 2,653,298円 | 653,298円 |
| 30年 | 2,500,000円 | 4,321,942円 | 1,821,942円 |
- 手順1:単利。1,000,000 × (1 + 0.04 × 10) = 1,000,000 × 1.4 = 1,400,000円。
- 手順2:複利。1,000,000 × 1.04^10。1.04^10 ≈ 1.4802443 なので、約1,480,244円。
- 手順3:差。1,480,244 − 1,400,000 = 80,244円。これが「利息についた利息」の合計です。
- 検算:1.04を2回かけると1.0816、5回なら約1.2166529、これを2乗すると約1.4802443で一致します。
3.72の法則 ― 2倍になるまでの期間を見積もる
複利で元本が2倍になる期間は、72を年利率(%)で割るとおおよそわかります。年6%なら 72 ÷ 6 = 12年、年3%なら24年です。正確な値は数学の第5講で学んだ対数で求めますが、頭の中ですばやく比べるときにはこの見積もりが便利です。
72の法則はあくまで近似です。利率がおよそ年2〜10%のときによく合い、利率がとても大きかったり小さかったりすると誤差が大きくなります。逆に「何年で2倍」という話を聞いたとき、72をその年数で割れば、その話が年何%を前提にしているかもわかります。たとえば「3年で2倍」なら毎年約24%(対数で正確に求めると約26%)ずつ増えなければならないということなので、そうした約束を聞いたら、まずどれほど大きな危険を伴うのかを確かめるべきです(第9講)。
- 手順1:見積もり。72 ÷ 6 = 12年。
- 手順2:確認。1.06^12 ≈ 2.0122 なので、12年後には約2.01倍です。
- 手順3:正確な期間。log 2 ÷ log 1.06 ≈ 11.9年で、見積もりとほぼ同じです。
- 検算:1.06^6 ≈ 1.4185、これを2乗すると約2.0122です。
4.現在価値 ― 将来のお金を今日に連れてくる
複利の公式を逆に使うと、「将来のある金額が今日いくらの価値か」を求められます。これを現在価値といい、将来の金額を (1 + r)^n で割る手続きを割引といいます。ここでの r は「今日お金を持っていれば、その期間に期待できる利率」で、割引率と呼ばれます。
現在価値は、時点の違うお金を同じ土俵にのせて比べるときに使います。「今の800万円」と「5年後の1,000万円」のように受け取る時点が違うと、金額だけを見て比べることはできません。両方を今日の価値に直してはじめて公平な比較になります。ただし結果は割引率を何%とするかで変わるので、割引率そのものが1つの仮定だということもあわせて書き添えておく必要があります。
- 手順1:1.04^5 ≈ 1.2166529。
- 手順2:10,000,000 ÷ 1.2166529 ≈ 8,219,271円。
- 手順3:解釈。年4%を仮定すると、今日の約8,219,271円が5年後の10,000,000円と同じ価値です。今800万円を受け取るより少し有利という計算になります。
- 検算:8,219,271 × 1.04^5 ≈ 10,000,000円 に戻ります。
5.積立の複利の感覚 ― 払い込んだお金と増えたお金
まとまったお金を一度に入れるのではなく、毎年一定の金額を入れる場合もしくみは同じです。毎年入れたお金がそれぞれ残りの期間だけ複利で増え、それをすべて足せばよいのです。早く入れたお金ほどかけ算の回数が多いので、大きく増えます。
積立で必ず区別したいのは、「自分が払い込んだお金」と「増えたお金」です。例として毎年年末に100万円ずつ10年間入れ、年5%の複利を仮定すると、払い込んだお金は1,000万円、元利合計は約12,577,893円です。差の約257万円が増えた分です。結果の金額だけを大きく見せる広告は、この2つを混ぜて見せることがあるので、分けて見る習慣をつけましょう。
- 手順1:1年目に入れたお金は、あと2年増えます。1,000,000 × 1.05^2 = 1,102,500円。
- 手順2:2年目に入れたお金は、あと1年増えます。1,000,000 × 1.05 = 1,050,000円。
- 手順3:3年目に入れたお金は入れたばかりなので1,000,000円。
- 手順4:合計。1,102,500 + 1,050,000 + 1,000,000 = 3,152,500円。払い込んだお金は3,000,000円、増えたお金は152,500円です。
- 検算:毎年の残高を追うと、1,000,000 → 1,000,000 × 1.05 + 1,000,000 = 2,050,000 → 2,050,000 × 1.05 + 1,000,000 = 3,152,500円で一致します。
6.複利の計算を読むときの注意点
複利の公式は正確ですが、公式に入れる利率はたいてい仮定です。預金のように利率があらかじめ決まっている場合でなければ、「年○%で30年」という計算は、その利率が30年間ずっと続くという仮定の上に成り立っています。実際の収益は毎年上下し、損失の出た年があれば結果は大きく変わります(第8講)。
- 利率は仮定である:確定した利率なのか、期待や例としての利率なのかをまず確かめる
- 税金と手数料を引く:利息には税金がかかり、商品によっては信託報酬などが毎年差し引かれる ― 小さな割合も複利のように積み重なる(第2講・第7講)
- 物価を考える:元利合計が増えても、物価がそれ以上に上がれば購買力は減ることがある(第2講)
- ローンにも複利が働く:返さなかった利息が元本に加わると、借金もかけ算で増えていく(第4講)
📌 要点まとめ
- 同じ金額でも受け取る時点によって価値が違う ― これがお金の時間価値である
- 単利は 元本 × (1 + r × n)、複利は 元本 × (1 + r)^n ― 期間が長いほど差が広がる
- 72 ÷ 利率(%)は2倍になる期間の見積もりで、正確な値は対数で求める
- 現在価値 = 将来の金額 ÷ (1 + r)^n ― 時点の違うお金は今日の価値に直して比べる
- 積立では払い込んだお金と増えたお金を分けて見て、公式の中の利率が仮定かどうかを確かめる
🔁 演習問題(無制限)
問題を限りなく新しく作り出します。答えを書いて「確認」を押すとすぐに採点し、「解き方を見る」を押すと本文と同じ順序の段階ごとの解き方が開きます。難易度を選べ、連続で正解した回数を数えます。問題の金利・物価・税率は、すべて計算練習のための仮の値です。
- 単利の元利合計
- 複利の元利合計(1年ごとの複利、1円未満四捨五入)
- ふつう以上:72の法則、目標金額の現在価値
- 難しい:同じ条件での複利と単利の差
この演習はブラウザのJavaScriptで問題を作ります。いまは問題を作れないので、上の例題と確認問題で練習し、JavaScriptを有効にしてから開き直してください。
答え
答えは整数・小数・分数で入力します(例:12、0.75、3/4、−2/3、1 3/4)。分数の答えは小数第3位まで合っていれば正解とします。解き方を先に見るか間違えると連続正解は0に戻り、最高記録だけがこのブラウザに保存されます。
🤖 AIにはこう聞いてみましょう
コピーして [ ] の部分を自分の状況に書き換えて使います。答えはそのまま信じず、本文と比べて確かめましょう。
複利の計算結果を確かめたいとき
元本 [金額] を年 [利率]% の年1回複利で [期間] 年預けたときの元利合計を、1年ごとに1行ずつ表で見せてください。同じ条件の単利の結果も横に並べ、1円未満の端数処理のルールを明記してください。最後の値は私が電卓で自分で検算します。税金と手数料は除いて計算してください。
「何年で2倍」のような広告の文句を見たとき
次の文句が年何%の複利の利回りを前提にしているかを、72の法則と正確な式(対数)の両方で計算してください。そして、その利回りが確定したものか仮定なのかを文句から判断できる根拠があるかどうかも指摘してください。投資の勧誘はしないでください。文句:[貼り付け]
現在価値の練習をしたいとき
単利・複利・72の法則・現在価値をまぜて、身近な場面の計算問題を6問作ってください。数字はすべて仮の例であることを明記し、年1回複利と1円未満四捨五入を使ってください。正解は伏せておいて、私が答えたら段階ごとの解き方と検算を見せてください。
🧰 関連ツール
この講義の計算を自分の数字で試せるツールです。結果は入力した仮定による計算で、投資の勧誘ではありません。
- 高校数学(指数・等比数列)と金融の入門書で扱われる単利・複利・現在価値の一般的な内容
- 72の法則に関する一般的な説明(近似式とその誤差)
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